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慢性疲労症候群

中医学からみた補中益気湯

全身の倦怠感、めまいや立ちくらみ、手足の冷え、食欲不振、慢性的な下痢や便秘・・・。現代の医療の現場では、このような不定愁訴がある場合、まず検査をします。そして異常が見つからないと、「慢性疲労症候群」「自律神経失調症」といった診断が下され、ビタミン剤や止瀉薬などの薬が与えられます。しかし、これで一時的に症状はおさまっても、根源にある病因を治療したことにはなりません。
 何のつながりもないような症状も、脾胃の機能低下が原因であれば、衰えた脾胃の力を補ってやり、全身に栄養物をめぐらせるエネルギーをつくり出すのが「補中益気湯」の主な作用です。

症状と病因を同時に治す「標本同治」の薬

・立ちくらみ、慢性の頭痛
・眼精疲労、弱視、眼筋無力症、眼瞼下垂
・筋無力症候群、筋萎縮性側索硬化症
・胃下垂、胃・腸アトニー、慢性胃腸炎
・遊走腎、慢性肝炎
・遺尿症、尿崩症、排尿困難、タンパク尿、乳糜尿、脱肛、慢性下痢
・低血圧症、起立性失調症、自律神経失調症
男性の病気:男性不妊症、精子減少症
女性の病気:子宮脱、帯下、月経過多、頻発月経、切迫流産、習慣性流産、不正性器出血
老人に多い病気:尿失禁
子供に多い病気:夜尿症

 上記の症状をとるのは対症療法で中医学では標治といい、病気の実体である病因を治療することを本治といいます。さらに症状と病因の両方を同時に同じ処方で治療することを標本同治と表現します。補中益気湯は症状を病因から治す「標本同治」の薬です。

病名から判断する補中益気湯の適応症

脾胃の機能低下が発端となった全身病では、人によって全く症状を異にする場合があります。また、同じ症状でも他の原因で現れることもよくあります。その判別は、先に述べた九つの症状のうち四つがあれば、まず間違いありません。

補中益気湯が適応する病気には、胃下垂症、慢性下痢、子宮脱、痔などの内臓下垂、女性の月経過多、不正出血、帯下、老人性失禁、子供の夜尿症、眼瞼下垂、筋無力症などがあり、いずれも固摂作用の低下によるものです。
 補中益気湯は、単なる消化器系の薬ではありません。消化器から始まった全身病と治療する薬であるため、このようにさまざまな病気に適用できるのです。
 中国の病院では、精密な診断の上、きわめて有効に補中益気湯がさまざまな病気に適応されています。

体力の落ちた老人や子供にもあう

補中益気湯は、体力の落ちた老人にはもってこいの薬です。老人の便秘は、エネルギー不足で筋肉が緩んで起こるものですし、原因不明といわれている老人性の前立腺肥大症も、補中益気湯で治ることが多いのです。また、ほかはどこも悪くないのに失禁だけがあるような場合にもよく効きます。
 また、子供に対しても非常に広く使う薬です。成長過程にある子供は、食べ過ぎても栄養が不足しても、すぐに調子を崩して病気になってしまいます。これは、発育途中でからだの機能がまだ不十分でバランスが悪いために起こるものです。
 子供と老人、どちらにも補中益気湯が適応するのは、からだの中心的な機能である食物を受納し、消化吸収した栄養物を全身にめぐらせるという働きを補中益気湯が強化するからです。

 子供には効き目が素早く現れますし、子供のほとんどの病気が脾胃の機能を補えれば治るものですので、とても安心して使えます。

青白い顔をして痩せている人ばかりとは限らない

補中益気湯が適応すると考えられる人は、脾胃の機能が低下してエネルギー不足に陥っているため、体力が落ちています。そのため、一見して、たいていは肩が下がって、元気がなさそうに見えます。
 青白い顔をして痩せているという人に補中益気湯が適応することはよくあるのですが、それとは逆に、いわゆるでっぷりとした「重役腹」や中年太りの人にも適用できます。

 日本では従来、一見元気で体力もありそうな、太った人には補中益気湯は適応しないと考えられていました。しかし太って体力がありそうに見えても、慢性の疲労を示す九つの症状のうちいくつかを訴えることも多々あるのです。こういう人には補中益気湯を服用してもかまいません。
 このような人の場合、栄養代謝がうまくいかないために起こった肥満といえます。脾胃の機能を引き上げて、栄養物の全身へのめぐりをバランスよくしてやることで、太って元気そうな人の慢性の疲労のさまざまな症状は消えます。つまり、痩せている人への対処と同じ原理が適用できるのです。補中益気湯は、これまでみてきたように、一見相反する症状、例えば下痢と便秘、太り過ぎと痩せ過ぎの両方に効果があります。これは、決して相反しているのではなく、表裏の関係の症状で「中気下陥」という大もとの病因が引き起こしているものです。その治療原理は、衰えた脾胃の力を補って、さらにエネルギーを強めることです

じっくりと症状の回復をみる中国の名老中医の話

「中気下陥」によって引き起こされたさまざまな症状は、かなりの時間をかけて疲労が積み重なって現れてくるものです。したがって、即効が期待できない症状もたくさんあります。中国の名老中医といわれている張鏡人先生は、 「九つの症状のうち、四つ当てはまれば補中益気湯を服用するのに十分な理由となります。何日か経ってもあまり効果が上がらないのは、一回ごとに服用する量ではなく、服む期間が短いからです。自信を持って服用を続けて下さい」といわれおります。

補中益気湯が会わない三つの症状

補中益気湯はご覧のとおり、とても広範囲の症状に適応する、大変便利で有効な薬ですが、中には合わない場合もいくつかありますので注意してください。 具体的な不適応症としては、顔色が赤い人、重度の高血圧症、発疹があるという三つの点が挙げられます。

かぜや症状の激しい病気のとき服用を中止
 かぜなどの感染症にかかっている場合にも避けなくてはいけません。補中益気湯は、皮膚を引き締める働きがあるため、かぜをひきにくくしますが、病原菌が体内に入った状態では逆に菌を追い出しにくくなってしまうからです。感染症は一般に症状が激しいので、「症状が比較的弱い場合」に補中益気湯が適応すると考えればよいでしょう。
 また、吐き気がある場合も要注意です。補中益気湯は、からだの下部にたまってしまったエネルギーを上部に引き上げる働きがありますので、かえって吐き気がひどくなることがあるのです。
 補中益気湯は、もともと中等度の症状に与える薬であるうえ、体力が弱っている人に与えるため、量も少なく処方してあります。そのため弊害はきわめて少ないといえますが、こうした点には注意して服用することが肝心です。