からだの生理機能に目を向けた根本的な治療が望まれている
花粉症は、命にかかわる病気ではなく、薬を服めば一時的に症状を抑えることができるので、軽い病気と見られがちです。
しかし、くしゃみ・鼻水・鼻づまりはとても不快な症状ですし、西洋薬の多くには「眠くなる」という欠点があります。また、かぜなどと違い、症状が出る期間が長いため、薬を服み続けることに抵抗を感じる人も多いようです。
中薬であれば、長期に服用しても問題はありませんし、妊娠中の女性にも安心して薦められます。もちろん、眠くなることもありません。単なる対症療法ではなく、からだの生理機能に目を向けた根本的な治療を行いますので、根治に近い結果が得られる場合が多くあります。
発症して間もないアレルギー性鼻炎には「小青竜湯」
病気は、肺から脾さらに腎と、からだの下に向かって進行します。花粉症や、発症して間もない通年性アレルギー性鼻炎で寒い症状がある人には、肺の働きを活発にし、水飲をからだの外に出す「小青竜湯」を与えます。
効果は一服でわかります。たとえ効かなくても副作用はほとんどありませんが、効果がみられないときは、病が脾や腎にまで進んでいたり、まったく違う病気ということも考えられますので、処方を変えることが必要です。
小青竜湯を長く服むうちにだんだん効かなくなる人がいます。これは、強い発汗作用をもつ麻黄が含まれているため、防衛力を落としてしまうことがあるからです。もともと丈夫な人なら問題はないのですが、元気のない人や、かぜをひきやすい人には「人参湯」「補中益気湯」「防已黄耆湯」など、防衛力を高める薬と一緒に服むようにします。
熱症状がある場合には、小青竜湯に石膏や少量の「茵陳蒿湯」を加えるとよいでしょう。または、小青竜湯に茵蔯五苓散を併用します。
病気の原因が脾にあるときは消化・吸収力を高める薬を与える
肺に問題があって水飲ができている場合でも、もとをたどると脾の機能の低下が原因となっていることがあります。鼻炎症状のほかに、胃の調子がよくない、いつも軟便である、食欲がない、偏食が激しいという訴えをもつ人には、脾と肺の両方を考えた薬が必要になります。一般的なのは、「六君子湯」のような消化・吸収力を高める薬を中心に、水飲を取り除くための薬「苓桂朮甘湯」と「苓甘姜味辛夏仁湯」を加えた方剤です。
長引くアレルギー性鼻炎などは、肺よりむしろ脾と腎を同時に治療した方がよい場合があります。こういう人には「人参湯」に「五苓散」を合わせて投与します。鼻炎症状を抑える薬ではありませんが、問題のもとになっている脾が回復すれば、自然に水飲がたまりにくくなりますから、症状はだんだんおさまってきます。急性症状を抑えたい場合は、五苓散の代わりに苓甘姜味辛夏仁湯を服用するとよいでしょう。腎の問題が大きい場合は、「真武湯」や「牛車腎気丸」で温める必要があります。
体力の衰えた老人や妊娠中の女性も、治療の基本は同じ
以上の治療法は、体力が衰えた人や、ある年齢の人に出やすい症状も考慮していますので、基本的には年齢・性別を問わずに使うことができます。
高齢者に向く薬としては、そのほかに「麻黄附子細辛湯」があります。小青竜湯と同じように麻黄が含まれていますが、量は少ないですし、附子や細辛の働きで水飲を尿として排泄する役目をもつようになりますから、害はありません。また、若い人でも冷えの強い場合には適応します。アレルギー性鼻炎の殆どは、小青竜湯単処方でなく麻黄附子細辛湯をファーストチョイスしてもよいくらいです。
妊婦の場合も基本的な治療法は同じですが、産前産後の体力を補う薬を与えて治すこともできます。「当帰芍薬散」に黄耆を加えた処方などがそうです。また、苓桂朮甘湯に「温経湯」を合わせると効く場合があります。
肺・脾・腎が正常なのに花粉症にかかってしまった場合
肺・脾・腎が正常に働いていても、体内に水飲があると、エネルギーの通り道である「三焦」をふさいでしまうことがあります。いかにも体力がありそうな人が花粉症にかかるときは、この「通路の交通渋滞」が原因になっていることが多いのです。この場合は、前に述べた肝の機能の低下が大いに関係しています。「柴胡桂枝乾姜湯」「小柴胡湯と半夏厚朴湯」などに五苓散や苓桂朮甘湯、苓甘姜味辛夏仁湯などを合わせた処方が有効です。
このほか、アレルギー性鼻炎とよく似た症状があっても、慢性鼻炎や副鼻腔炎ということも考えられます。かぜをこじらせて鼻炎症状が残ってしまったり、鼻づまりがひどく、鼻水が黄色く粘るような場合は、慢性鼻炎と考えて「葛根湯加川芎辛夷」を与えます。慢性副鼻腔炎による鼻づまりには「荊芥連翹湯」「清上防風湯」などがよく効きます。
欧米化した食生活がアレルギー疾患を生み出す原因に
日本は多湿な環境にあるため、健康に過ごしているようでも、体内に水飲がある人はたくさんいます。しかし、冷蔵庫が普及していなかった時代には、生ものや冷たいものを食べることはあまりなく、必要以上にからだを冷やすこともありませんでした。
現在のように、朝食は冷たい牛乳に生野菜、冬でも冷えたビールやアイスクリームといった食事ばかりとっていると、脾胃はどんどん冷やされ、消化・吸収力が落ちてしまいます。からだを冷やさない食事を続けてきた日本人が欧米化した食生活を送るのは、いってみれば、遺伝子に逆らっているようなものです。
冷たいもの、生ものをとり過ぎないことが、花粉症の予防につながる
季節性の病気である花粉症は、生活を変えることで、ある程度予防することができます。まず、防衛力を高めることが大切ですから、過労や暴飲暴食を避け、冷たいものや生ものはできるだけ取らないようにします。特に、冬のうちからの「準備」が大切です。
通年性の場合は、花粉症よりさらに先天的な要素が大きいため、症状に合わせてほぼ一生薬を服み続けなければなりませんが、水飲ができにくい食生活や、労働と休養のバランスがとれた生活を送っていれば、薬の効き目もよくなり、その結果、薬を服まなくても症状が現れないようになるはずです