慢性的でくり返し起こるめまいの診断と治療
生命エネルギーのおおもとが不足して、めまいが起こる 精は、成長や発育、成熟、老化といった生命活動の原動力であり、生命エネルギーのおおもととなる基本物質です。精は、両親から受け継いだ「先天の精」と、飲食物が脾胃で消化吸収されたのちに五臓の働きによってつくられる「後天の精」からなり、腎にたくわえられます。また、骨や髄は精からつくられ、髄が集まって脳ができます。精が十分にあり、しっかりと働いてはじめて、脳は正常に活動できるのです。
しかし、体質が虚弱だったり、老化、慢性病による基本物質の消耗、過労、飲食の不摂生、過度のセックスなどが原因で精が不足すると(「腎精不足」)、脳の活動に必要な髄を十分に満たすことができず、脳の機能低下を招くため、絶えずめまい感が起こります。腎精不足には、精の水分成分(「陰精」)が不足する場合と、精の機能(「陽精」)が低下する場合があります。
精の水分成分(陰精)が不足すると、頭のふらつき、疲れやすい、物忘れ、耳鳴り、かすみ目、腰や下肢がだるく力が入らない、インポテンツ、尿の量が少なくトイレの回数が多い、あるいは透明な尿が短く量が多い、夜間尿が多い、無月経などの症状をともないます。陰精不足は、腎の精や津液の損傷がさらに進み、両親から受け継いだ生命の原動力となる物質(元陰)も傷ついた状態で、熱性の症状が強く現れないのがふつうで、舌も紅く乾燥することはあまりありません。この場合、「
六味丸」で腎の精を補います。
一方、精の機能(陽精)が低下気味になると、陰精不足の症状に加えて、寒さをきらう、顔面蒼白、手足の冷え、尿の色がうすく量が多い、舌の色が淡い、脈が弱く遅いといった、冷えによる症状が現れます。この場合は、「
八味地黄丸」などで腎の機能を高めます。腎精不足では、陰と陽の境界が微妙なうえ、陰精の不足が陽精におよぶケースと、陽精の不足が陰精におよぶケースが絶えず変化するので、症状をよくみて漢方薬を使い分けることがたいせつです。
消化吸収機能が低下してめまいが起こる
脾は胃と協力して飲食物を消化吸収し、気や血、津液につくり変えて全身に送り、からだの機能活動を維持しています。先天的な体質虚弱、慢性病による衰弱、過労、ストレス、食生活の不摂生、老化などの原因によって脾胃の機能が低下すると(「脾胃気虚」)、清陽が上昇せず、脳や髄が十分に満たされなくなるために、慢性的にめまいが起こります。
眠気、耳鳴り、横になりたがる、疲れやすくからだに力が入らない、話すのがおっくう、息切れ、食欲不振、便秘あるいは下痢、舌が軟らかくみずみずしい、大きくて力が弱く空虚な脈あるいは細く弦を張ったような無力な脈をふれるなどの症状をともなうときは、清陽を上昇させる力を強めるために「補中益気湯」で脾胃の機能を高めるといいでしょう。
消化吸収機能が低下し血液の滋養作用がおとろえてめまいが起こる
気と血はいずれも脾胃で生まれ、いつも一緒に活動しています。そのため、過労やストレスなどで脾胃の機能が低下して気や血が十分につくられなくなって消耗されたり、重い病気や出血などによって気や血が大量に失われると(「気血両虚」)、心の血が不足します(「心脾両虚」)。心は「神」(ここでは脳の機能)をコントロールする臓なので、めまいが起こります。
このときストレスを受けると、脳の機能はさらにおとろえて、めまいのほか、顔につやがない、かすみ目、耳鳴り、くちびるの色が淡い、どうき、物忘れ、驚きやすい、疲れやすい、不眠、舌の色が淡い、脈が細くて力がないといった症状が現れます。
この場合は、脾と心の気と血を補うために「
加味帰脾湯」や「帰脾湯」、「
十全大補湯」「
人参養栄湯」を使うといいでしょう。