侵入した病因物質が急性の耳鳴りを起こる(風熱)
病因物質(邪)に対する抵抗力(「衛気」)は腎で生まれます。また、肺は腎と協力して呼吸活動と水分代謝を行い、衛気をからだの表面に送り出します。病気による消耗や食生活の不摂生、過度のセックスなどで腎の機能がおとろえると、正気も低下した状態になり、「風邪」が「熱邪」や「寒邪」をともなって経脈に侵入しやすくなります。寒邪は体内で熱邪に変わります。
風熱の邪が経脈をふさぐと、激しい耳鳴りが突然起こります。強い難聴や悪寒、発熱、頭痛、関節痛、耳のかゆみをともない、舌が紅くなるほか、浮いたような脈をふれます。耳が強く痛み、膿がたまるなど、中耳炎が起きることもあります。この場合には、熱を冷まし抵抗力を高める「駆風解毒湯」や「桑菊飲」を使います。耳鳴りがごく軽く、耳がふさがったように感じる場合には、「
小柴胡湯」に「
香蘇散」を合わせたもので、肝の機能を回復して経脈の通りをよくすると有効です。
機能の停滞で生まれた火が激しい耳鳴りを起こす(肝火上炎)
肝は、基本物質の流れや、精神情緒・消化吸収機能を調節し、筋膜や腱に滋養とうるおいを与える「疏泄」機能を持っています。ストレスなどで肝の機能が滞ると(「気滞」)、火が生まれ、激しく燃えあがります(「肝火上炎」)。この火は「実火」といい、陰の不足のために相対的に余った陽が変化して生まれた「虚火」とは異なります。
火が経脈をふさぐと、強い耳鳴りや突発性の難聴が起こります。さらに、激しい頭痛や顔面紅潮、目の充血、口の乾燥、口が苦い、怒りっぽい、イライラ、不安感、不眠、便秘などの症状をともない、舌が紅く黄色い苔がつき、弦を張ったような脈をふれ、脈拍数が多くなります。
このような激しい熱性の症状をともなう耳鳴りには、肝の血や津液を補い火を消すために「
竜胆瀉肝湯」などを使います。熱性の症状がそれほど強くないときは、肝の機能の滞りを解消し、血を補いながら熱を冷ます「
加味逍遥散」に、腎の精を補う「六味丸」を合わせたものや、肝の機能の亢進をしずめる「
柴胡加龍骨牡蛎湯」や「
大柴胡湯」「
抑肝散加陳皮半夏」などを使うといいでしょう。
栄養の代謝が悪くなると急に耳鳴りが起こる(痰火)
食生活の不摂生が脾胃の機能を失調させたり、ストレスによる肝の疏泄機能の亢進が脾胃を傷つけると(「肝気横逆」)、栄養代謝が悪くなって津液の流れが滞り、粘液性の病因物質(「痰湿」)に変化します。太り気味の人も、やはり栄養代謝が悪く、痰湿がたまりやすい傾向があります。また、こってりしたものや脂っこいものを食べ過ぎると、胃で熱が生まれます(「胃熱」)。こうして生まれた痰湿と熱が結びつくと「痰火」となります。
痰火が突き上げて(「上逆」)、経脈をふさぐと、強い耳鳴りが起こり、耳がふさがったような感じになります。さらに、頭のふらつき、頭が重い、胸や腹が脹って苦しい、たん、せき、大小便がすっきり出ないといった症状が現れ、舌が紅くべっとりした黄色い苔がつくほか、弦を張ったような滑らかな脈をふれ、脈拍数が多くなります。
このような場合には、火をおさえ痰を除いて経脈の流れをよくする「安宮牛黄丸」を、熱性の症状が強くないときは、痰を除き脾胃の機能を補う「
半夏白朮天麻湯」や、痰を除き亢進した肝の機能をおさえる「黄連温胆湯」を使います。
血液の流れの滞りも耳鳴りの原因になる(血瘀)
気と血はいつもペアで活動しているため、気が滞ると血も滞りますし、外傷などで滞ることもあります(「血瘀」)。血オによって経脈がふさがれると、突発性の難聴とともに、強い耳鳴りが起こります。このときは、顔が黒ずむ、皮膚が青紫色になって乾燥しザラザラになるといった症状のほか、舌が紫色になったり(「瘀斑」)、紫色の点がつきます(「瘀点」)。この場合には、気をめぐらせ、血の流れを回復する「
冠脉通塞丸」を使うといいでしょう。