田七人参のすぐれた止血作用について
文献に見る効能
田七人参についての記述は「本草綱目」だけでなく、多くの古い文献にも登場しています。そして、その多くは、田七人参のすぐれた止血作用について述べています。 使い方は文献によっていろいろです。田七人参の粉末をそのまま傷口に振りかければいいとしたものもあるし、単独で服用するか、あるいは他の生薬と共に服用するとしたものもあります。 また、血を止めるだけでなく、痛みを止める効果があるとしたものもあるし、止血止痛の効果は、外傷だけでなく腸内出血や下血に対しても有効であるとした文献も見受けられます。 田七人参の止血作用については次のようなおもしろい話もあります。 高貴薬として良く知られ強壮薬に用いられる鹿茸(ろくじょう)という生薬は、鹿の角が新しく生え変わるときに袋状の皮膚ごと切除したものですが、切除した際にその傷口に田七人参の粉末を擦り込み治療を行うと、鹿の出血が直ちに止まると言われています。
現在も止血薬として多用されている
田七人参はいまも、止血薬や痛み止めとしてさかんに利用されています。 とくに中国では、単独で用いられるだけでなく、瘀血症の臨床にも化血丹、軍門止血方、七宝散、安血飲などの方剤(複数の生薬を併せた処方)中の主要薬としても使われています。 また、アジアの広い地域でよく知られた「雲南白薬Jという薬があり、これは打ち身、ねんざ、切り傷などの内出血・外出血に対する止血・消腫・鎮痛に優れた効果を発揮するといわれています。この薬も田七人参を主薬としており、中国内だけでなくアジア全域でつかわれているのです。
効能新発見でいちやくブームに
アジアでは止血薬として知られてきた田七人参ですが、日本でブームとなったのは、止血作用が原因ではありません。 ブームのきっかけのひとつは、「片仔廣」という中国の製剤が、肝炎に有効だと紹介されたことではないかと思われます。
1992年にr第51回日本癌学会」 において「田三七人参のがん抑制効果」 について発表されました。 この研究については、のちほどくわしく説明していきますが、この研究発表は反響が大きく、その後しばしば、週刊誌や健康雑誌でも田七人参が取り上げられるようになりました。 最近は、商品化も進み、この1、2年のあいだに、粒状のものや、エキス状のも 冬虫夏草や霊芝を組み合わせたものなどが、健康食品として次々と開発され、販売されるようになっています。 そして、今後も田七人参をつかった商品はますます普及することが見込まれ、業界では朝鮮人参にかわる人気商品として期待しているようです。
他にもすごい効果が
ここ数年、田七人参の研究も進み、がん抑制以外にも、さまざまな薬効があるらしいということがわかってきています。 たとえば、狭心症など循環器系統の病気に対する効果です。中国ではすでに、臨床的にも効果が明らかにされています。 また、各種の炎症に対する効果も注目されています。もともと、目に見える皮膚などの外部の炎症への効果は確認されてきましたが、内臓の炎症にも効果があるようです。 とくに、肝臓の炎症や肝機能障害への効果が注目を集め、酒の飲みすぎによる肝機能障害や、C型肝炎などウイルス性肝炎にも効果があったという報告も出てきているほどです。
田七人参は有効成分がいっぱい
田七人参は、サポニンを多量に含んでいます。
田七人参は、朝鮮人参とはきわめてよく似た植物ですが、朝鮮人参が奈良時代に日本に伝来されているのと比べ、田七人参が日本に紹介されたのは昭和30年代になってからのようです。 したがって、その成分についての研究も比較的新しいものです。 また、当初は朝鮮人参とおおむね同じ効能がある生薬とされていたため、朝鮮人参と田七人参とが同じ成分を含んでいるかどうかの比較研究が行われてきました。 その結果、田七人参も、サポニンといわれる一連の化合物が主たる成分であって、朝鮮人参にも多量に含まれるジンセノシドーRb1−、Re、Rg1−などの種類のサポニンが、多量に含まれていることがわかったのです。 したがって、田七人参も当然、朝鮮人参と同じような免疫増強や強壮作用なども期待されます。 サポニンにはたいへん多くの種類がありますが、一時、ブームになったアマチャゾルにもある種のサポニンが多く含まれているというので話題になりました
サポニンにもいろいろある
田七人参には、兄貴分ともいえるよく似た植物がいくつかあることも知られています。たとえば、日本にも自生し、主として鎮咳薬として用いられる竹節人参や、アメリカニンジン、ベトナムニンジンなどは、朝鮮人参とともに同じ属に分類される植物です。 これらにもそれぞれよく似たサポニンが含まれています。ただし、その化学的性質は少しずつ異っていて、効能も薬の用途もそれぞれ特徴があるのです。 したがって、サポニンがあるからといって、これらの仲間がすべて朝鮮人参と同じ薬効があるとは限らないし、逆に、朝鮮人参以上の効果があることも期待できるわけです。
デンシチンの発見
朝鮮人参を含む田七人参の多くの仲間には、田七人参をのぞいてどれも、止血作用はありませ。 そこで、田七人参には独自の成分が含まれているのだろうと考えられ、止血作用を持つと思われる成分が発見されました。それはアミノ酸の一種で、田七人参から発見されたため、「デンシチン」と命名されたのです。 このデンシチンの効能も、今後、さらにくわしく明らかにされていくでしょう。
多くの成分の相乗効果
最近の研究では、田七人参にはがんに対する強い予防効果があることが明らかにされました。そして、その効果をもたらしてくれる成分のひとつは、バナキシノール、バナキシトリオールと称されるある種のアセチレン化合物であろうと考えられています。 また田七人参には、フラボノイド類やでんぷん、たん白質も含まれていることも明らかになってきました。これらの成分も、がんの抑制やそのほかの薬効にも、かかわりがあるのかも知れません。 さらに、鉄分やビタミンA、カルシウムなども含まれ、これはそれぞれが単独でも薬や健康食品になるほどです。 そもそも、田七人参に限らず、一般に生薬の薬効というのは、単一の成分によってのみ発揮されるものではないのです。多くの成分が組み合わされることによって、相乗的に効果が高まると考えられるのです。したがって、サポニン以外の成分に関しても、今後の研究が期待されるところです。
また、これまであげた成分のほかにも、有機ゲルマニウムや、田七ケトンなどの成分も含まれているという説もあり、多方面の研究が行われているようです。 ただし、残念ながら現在までのところ、確実な結論はでていません。今後はこうした成分も含めて、多くのことが明らかにされるでしょう。