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尿漏れと漢方

女性に尿漏れがなぜ多い?

「くしゃみや咳をした拍子におしっこがもれてしまった」「トイレが近くて尿意をがまんできない」−こうした排尿トラブルに悩む女性が増えています。男性の排尿トラブルが「尿が出づらい」などの排尿障害が多いのに対し、女性に圧倒的に多い症状が尿もれ=尿失禁です。
 女性に尿もれが多い理由はいくつか考えられます。
 一つは尿道の構造です。男性の尿道がL字状に約25センチあるのに対し、女性の尿道は4センチほどしかありません。男性に比べて女性が膀胱炎にかかりやすいのはこのためです。
 おしっこを我慢する時には、尿道括約筋と平滑筋が使われます。尿道括約筋は、尿がもれないようにする「バルブ」のような役割を担っている筋肉です。大脳の指令を受けて、括約筋を緩めたり締めたりして尿が出るのをコントロールしているわけですが、括約筋は出産や加齢によって弱くなると考えられています。
 もう一つは、女性の骨盤底にある筋肉群がゆるみやすく、筋肉を引き締める力が弱いことが指摘されていますム括約筋と同様に出産や加齢でゆるみやすくなるといわれています。また便秘や冷え、さらに更年期に差し掛かる40〜50代の女性の場合は、女性ホルモンが減少することも尿道機能が不安定になる一因のようです。

尿失禁の特徴と症状

尿もれにはいくつかの種類があります。1つは「腹庄性尿失禁」。尿意を感じていないのに、くしゃみや咳をしたり、お腹に不意に力が入ったとたんにおしっこがもれる症状で、出産経験のある女性や太り気味の女性、高齢者に多いのが特徴です。
 高齢者によく見られるのが「切迫性尿失禁」です。尿意を感じてトイレに行こうとしても、強い尿意で我慢できずに尿をもらしてしまう症状です。あまりにも尿意が強く、自分の意思に反して尿が出てしまうことから「切迫性」という表現が用いられています。

 そのほか、ストレスが原因の「心因性頻尿」や尿意がなくてもだらだらと溢れるようにもらす「溢流性尿失禁」などの症状があります。
中にはこれらの尿失禁の症状が重なった混合型もあります。

40歳以上の8人に1人が過活動膀胱

最近、日本はもちろん国際的にも注目されているのが「過活動膀胱」と呼ばれる尿の疾患です。 2001年にフランスのパリで開かれた国際尿失禁学会で承認きれた新しい病気で、尿意を我慢できない尿意切迫感や頻尿、尿失禁など3つの症状が合わさった症候群のことを指します。先にご紹介した腹庄性尿失禁や切迫性尿失禁といった、女性に多い尿もれを総称して過活動膀胱と言うこともあるようです。
 日本排尿機能学会では、02年11月から12月にかけて日本で初めて大規模な排尿に関する疫学調査を行いました。この調査によると、40歳以上の男女の12.4%、およそ8人に1人が過活動膀胱に悩んでいるという結果が出ました。人口換算にすると820万〜830万人になります。ちなみに、昼間頻尿は50%、夜間頻尿では69%もの人が症状を訴えています。
 尿もれは、直接、生命にかかわるような病気ではありませんが、恥ずかしさや不安感から人に相談することもできず、日常生活に大きな影響をもたらします。特に患者さんにとって大きな問題は、生活の質を意味する言葉として使われる「QOL(quality of life)」に悪影響を及ぼすことです。
日本排尿機能学会の調査によれば、
・外出する時に不安になる
・トイレで目が覚めて睡眠不足になる
・遠出や団体行動を避けるようになる
・自分の症状に恥ずかしさを感じる
といったように、心の健康や家庭生活、仕事、身体機能などのQOLが著しく低下することが明らかになっています。スポーツや旅行、観劇など生活の楽しみの部分が制限されるだけでなく、配偶者や家族にも話せず独りで悩む人も少なくないようです。
 過活動膀胱の治療には、医療機関では基本的に運動神経系に作用する新薬を中心とした薬物療法や手術が行われるほか、膀胱や骨盤底を強化するトレーニング、日常のセルフケア(水分をとり過ぎないようにする、尿意を感じるまでトイレに行かないような習慣を身につける、カフェインやアルコールは避ける等)などが施されます。適切な治療を施せば症状を和らげることは可能ですが、治療法を知らなかったり「年のせい」とあきらめてしまう人がいるのも現実です。
 漢方では、八味地黄丸六味丸猪苓湯を始め「尿」のトラブルに対応する処方が数多くあります。