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  下痢と漢方

下痢の治療法


急性の下痢は、誰もが経験する身近な症状です。中医学では、便の状態は付随する症状から、原因をつきとめて治療します。胃腸の弱い人に多い慢性の下痢や、ストレスがからむ過敏性腸症候群は、ひとりひとりの体質やからだの状態をよく見きわめて、根本から治療します。下痢のメカニズムと治療法について、具体的にみていきましょう。
下痢の原因とメカニズム
下痢の治療法
   
1 急性の下痢
 
①冷たい飲食物の取りすぎなどで起こる下痢

生ものや冷菓を食べすぎたり、冷たいものを飲みすぎたときに起こりやすいのが、寒湿の邪による下痢です。湿度の高い日本では、非常によくみられる病態です。

水様便に加え、吐き気、手足や全身が重くだるい、頭がすっきりしない、むくむ、寒気がする、といった症状が現れます。この場合は、寒湿を取り除きながら、脾の機能を正常に戻す「藿香正気散」で治療します。

冷えの症状があまりない場合は、脾の湿を取り除く「平胃散」がいいでしょう。

②酒や脂っこいものの食べすぎや、食中毒による下痢

 腐ったものを食べたときや、脂っこいものを食べすぎたり酒を飲みすぎたとき、べたっとした、いやなにおいのする下痢を起こすことがあります。そのほか、おなかが脹って苦しい、食欲がない、ムカムカする、肛門に灼熱感がある、といった症状があるときは、湿熱の邪による下痢と考えられます。

 熱の症状が強い場合は、大腸の湿熱を除く「藿香正気散黄連解毒湯」用います。

③食べすぎなどで消化不良を起こした場合の下痢

 食べすぎによって、脾胃の消化・吸収機能が阻害され、下痢が起こることがあります。症状としては、みぞおちが脹って痛む、おなかを押すと苦しい、いやなにおいのゲップがしきりに出る、不消化便が出る、などです。この場合は、消化を助け、脾胃の機能を回復させる「大柴胡湯」を用いると良いでしょう。
2 反復性・慢性の下痢
 
①胃腸が弱く、すぐに下痢をしてしまう


 ふだんから下痢を起こしやすく、疲れやすい、食後に眠くなる、顔がむくみやすい、尿が出にくいなどの症状がある場合は、脾胃の機能がもともと弱かったり、不摂生によって機能の低下を起こしていることが考えられます。排便は、出はじめは形があっても、あとは下痢になります。排便時の腹痛はないか、痛んでも軽度です。

 この場合は、ふだんから「六君子湯」や「参苓白朮散」で脾の機能を補っておくことがたいせつです。下痢が続くときには、「六君子湯平胃散」を合わせて使うとよいでしょう。また、同じような症状で、内臓下垂などがある人には「補中益気湯」が適しています。

②高齢者や冷え症の人の下痢

 高齢者や冷え症の人に多いのは、食べものを消化・吸収するエネルギーが不足して起こる下痢です。この場合、おなかが冷えて痛む、未消化な便が出る、手足が冷える、むくみやすい、などの症状が現れます。

 このタイプの人は、脾胃を温める「人参湯」をふだんから服んでおくとよいでしょう。冷えによる腹痛があるようなら「小建中湯」、下半身や手足まで冷えるようなら「鹿茸大補湯」を用います。

 高齢者の場合、下痢をすることによってエネルギーが消耗され、脾と腎の両方の機能が低下してしまうことがあります。この場合は「牛車腎気丸」や「人参湯牛車腎気丸の併用」などで腎陽を補いながら、脾胃の機能を高めます。

③精神的な問題から起こる下痢

 電車に乗ると便意をもよおす、試験前になるとおなかが痛くなるなど、精神的な問題が引き金となって、反復性の下痢が起こる場合があります。これは、精神・情緒をコントロールする肝が機能失調を起こし、気が滞ったために起こる症状です。過敏性腸症候群の症状の多くもこれにあたります。

 腸の蠕動運動が不安定になり、下腹部がゴロゴロ鳴る、おなかが脹る、下痢と便秘をくり返す、といった症状が現れます。この場合は、「逍遥散」で肝の機能を整えていくとよいでしょう。

 また、精神的な問題とは関係なく、おなかが脹ったり、ゴロゴロと鳴るような場合は、「半夏瀉心湯」が適しています。
 

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