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  急性の胸の痛み

急に起こりやすい胸の痛み


   
中医学による胸の痛みのメカニズム
急性の胸の痛み  
慢性の胸の痛み  
危険な痛み  
   
1 いくつかの原因が重なって突然起こる、胸の痛み
   老化や慢性病などによって滋養やうるおいの損傷が続いたり、くり返したりすると、肝や腎の機能が相対的に亢進します。そして、気の余ったものが「火」とされているように、やがて熱が生まれます。イライラしたり怒ったときに軽い胸の痛みが起こりカッとしたりイライラすると、一時的に胸が痛むことがあります。これは、過度の感情の変化(「喜・努・憂・思・悲・驚・恐」)が原因となって、全身の活動を調節する「肝」の働きが低下し(気滞)、血液の流れが滞って、心を流れる血液が一時的に停滞するからです(「心胸気滞」)。

 胸のあちこちがシクシクと脹ったように痛んだり、重苦しくなってため息をつくようになり、情緒の変化が強くなると胸の痛みが強くなります。また、胸の脇や胃のたたりが脹って痛み、ゲップやおならが出ると痛みがやわらぎます。舌には薄い苔あるいは薄くべっとりとした苔がつき、糸のように細い弦を張ったようなはっきりとした脈をふれます。

 このような場合には、肝の機能を回復するとともに、血液の流れをよくして痛みを止める「柴胡桂枝湯」や「小柴胡湯」「大柴胡湯」、などを選んで使います。症状がくり返したり、時間がたって肝の損傷が進み、症状がやや強く現れたり、のぼせやほてりなどの熱症状を抑える力の強い「加味逍遥散」や「冠脉通塞丸」を使うといいでしょう。
2 水分の代謝が失調すると胸の痛みが起こりやすくなる
   飲食物を消化吸収するのは「脾胃」の働きです。もともと脾胃が虚弱だったり、食生活の不摂生、ストレスなどが影響すると、脾胃の機能が低下して水分代謝が悪くなり、からだに必要のない有害な水分が生まれ、集まって発病因子(痰飲)に変わります。この痰飲によって心の血液の流れが滞ると、胸の痛みが起こります(「痰濁内阻」)。また、水分代謝には「腎」も深くかかわっているので、老化などによって腎の働きがおとろえると、水分代謝がうまくいかなくなって、痰飲が生まれやすくなります。

 もともと胃腸が虚弱で消化吸収力のおとろえやすい人や、水分代謝の機能が低下しやすい人に起こりやすい胸の痛みです。
 このときは、重苦しい胸の痛みが起こります。雨が降る前のように、湿度が高くなると痛むのが特徴です。これは、体内にある痰飲が、同じ性質をもつ湿気を引き込んで心の血液の流れをさまたげる力が強くなるからです。
 透明で水っぽいたんがたくさん出たり、食欲不振や疲労倦怠感などの症状をともない、白くうるおいのある舌苔あるいは白くべっとりとした舌苔がみられ、エキス剤では、苓桂朮甘湯二陳湯の併用をいたします。
 また、水分代謝の失調が進むと、からだの熱のために痰飲が粘稠になって(「痰熱」)、胸がムカムカして気分が悪くなり、たんが切れにくくなってきます。舌苔が白くべっとりとして、舌の表面がぬれているのに乾燥したようにみえ、玉をころがすように滑らかな脈をふれるときは、脾胃の働きを高めて水分代謝を正常にし、痰熱を除く「温胆湯」を使います。さらに熱の勢いが強くなってたんがますます切れにくくなり、大便が乾燥したり、黄色くべっとりとした舌苔が現れるときは、熱を除く力の強い黄連を加えた「黄連温胆湯」がいいでしょう。
冷えが引き金になって胸の痛みが起こる
   老化や過度のセックス、過労や慢性病などによって腎の機能がおとろえると(「腎陽虚」)、全身を温め水分を十分に代謝することができなくなります。そのため体内が冷えるとともに、からだに必要のない水分(「寒湿」)が生まれます。このタイプの人は、からだが寒邪を受けやすい状態にあり、ふだんから寒がりで冷え性気味です。

 暖かい部屋から出て冷たい外気にあたったり、冷たいものを飲みすぎたり食べすぎるなどして、からだが急に冷えると、締めつけられるような強い胸の痛みに襲われることがあります。これは、冷え(寒邪)によって心の血管が収縮し、血液の流れが滞るからです(「寒凝心脈」)。
 胸の痛みが背中や手の小指に向かって走ったり、寒がる・顔面蒼白・手足の冷え・冷や汗・息苦しいといった症状をともない、舌苔が薄く、緊張した脈をふれるときは、からだを温めて冷えを除くとともに血液の流れをよくする「当帰四逆加呉茱萸湯生姜湯」がいいでしょう。

熱が胸の痛みを引き起こす

 からだの活動に欠かせない滋養物質(「陰」)のうち、生命エネルギーのおおもととなる精は腎に、栄養とうるおいを与える血は肝にたくわえられます。また精は血につくり変えられ、血もまた精に変えることができます。そのため、肝と腎の一方に病変が起こると、必ずもう一方にも病変が起こるようになります(「肝腎陰虚」)。

 老化や過度のセックス、過労や慢性病などによって精や血、津液が慢性的に不足すると、肝や腎の機能はかえって亢進し、熱が生まれます。このような状態では熱邪を受けやすくなります。暑い日の続く夏など、強い熱を受けやすい環境では、熱が原因となって胸の痛みが起こることもあります。
 熱が上昇して心の血液の流れが速くなるとともに、血が濃縮して機能が乱れると(「血熱妄行」)、灼けるような胸の痛みが起こり、発熱・のどの渇き・イライラ・手足をバタバタ動かす・何度も寝返りをうつ・大便の乾燥などの症状をともない、舌がザラザラして、玉をころがすように滑らかで速い脈をふれるようになります(「陰虚火旺」)。

 このような胸の痛みには、全身の熱を冷ます力の強い「黄連解毒湯」や、「三黄瀉心湯」に石膏を加えたもの、場合によっては「温清飲」などを使います。
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