更年期障害の最大の原因はストレス(肝鬱)
精や気、血、津液の流れや、精神情緒・消化吸収機能を調節し、筋膜や腱に滋養と潤いを与える肝の生理機能を「疏泄」といいます。
血は精から生まれ、精は血に変化します。そして血は肝に、精は腎にたくわえられます。このように、肝と腎は密接な関係にあるので、更年期になって腎気がおとろえると、肝の機能もおとろえ、わずかなストレスを受けただけで肝の疏泄機能が失調止(「肝鬱」)、精や気、血、津液の流れが滞ったり、他の臓器の機能が損なわれます。
機能がおとろえて起こる症状(気滞)
肝鬱によって気の流れが滞ると(「気滞」)、ゆううつで気分が不安定、怒りっぽい、ため息、胸苦しい、胸脇の脹った痛み、胃が重い、ゲップ、食欲不振、大便がすっきり出ないといった症状が現れ、舌にベタッとした薄い苔がつき、ピンと張った脈をふれます。
この場合は、「小柴胡湯」に「香蘇散」を合わせたもので、肝の機能を高め気の流れを回復すると効果的です。のぼせ、ほてり、イライラ、顔面紅潮、目の充血、口乾、耳鳴り、微熱などの熱症状には、熱を除き気血を補う「加味逍遥散」を、頭痛、頭のふらつき、吐血などの激しい熱症状(「肝化上炎」)には、熱を除く力が強い「竜胆瀉肝湯」を使います。
血液の流れも悪くなって症状が起こる(血瘀)
気と血はペアで活動しているので、気が滞ると、血も滞ります(「血瘀」)。
気滞の症状に、頭痛や不眠、胸の脇の脹りや固定性の刺すような痛み、部分的な冷えあるいは熱感、痩せる、顔が黒ずむ、皮膚が青紫色、皮膚が乾燥し鱗状、といった症状が加わり、舌が暗い紫色になったり、紫色の斑点(「瘀斑・瘀点」)がつくときは、血の流れをよくする「桂枝茯苓丸」や「桃核承気湯」「大黄牡丹皮湯」「通導散」に、肝の機能を回復する四逆散と、血を補う「四物湯」を合わせて使います。煎じ薬では「冠脉通塞丸」がいいでしょう。冷えが強く、月経異常の症状が重いときは、温めて冷えを除き血を補い血の流れをよくする「温経湯」が効果的です。
水分代謝が異常になって起こる症状(痰鬱)
津液は、脾胃でつくられ、肺に送られたのち、全身に張りめぐらされた通り道(「三焦」)を通って体内を流れ、腎に達します。こうした水分代謝の原動力となるのが腎気で、一連の活動を円滑に行うのは肝です。
肝鬱が続くと水分代謝が悪くなり、津液の流れが滞って、粘液性の病因物質(「痰湿」)に変化します。滞った気と痰湿が結びつき、のどがつまったような異物感(「梅核気」)を覚えるときは、気の流れをよくし、痰湿を除く「半夏厚朴湯」がいいでしょう。
本来とは違う機能がひき起こす症状(気逆)
気の滞りが続いて肝の機能が異常に亢進すると、本来とは違う方向に働くようになります(「気逆」)。気逆には、からだの上に向かう「上逆」と、脾胃の機能を損なう「横逆」があります。
上逆による頭のふらつきや頭痛、胸脇の不快感、顔面紅潮、難聴、耳鳴り、嘔吐には「半夏瀉心湯」に「呉茱萸湯」を少量合わせたものや、柴胡桂枝湯と「二陳湯」を加えたもので肝の機能を高め気逆をおさえます。
横逆が起こると、栄養素を肺に送る脾の機能と、不要物を大腸に送る胃の機能が乱れ、腹の脹りと痛み、ゲップ、酸っぱい液がこみあげる、むかつき、嘔吐、大小便がすっきり出ない、泥状便などの症状が現れます。治療は、肝の機能を回復して脾胃の機能を高め、気血を補う「当帰芍薬散」や「逍遥散」「小建中湯」「「大柴胡湯」や小柴胡湯、「柴胡桂枝湯」で行います。
精神症状と胃腸症状が同時に起こるとき(心脾両虚)
気血は脾胃でつくられます。腎気が衰えると、脾胃の機能も虚弱になって、必要な量の気血をつくることができなくなるため、心の活動に欠かせない血が不足し心の機能も失調するようになります(「心脾両虚」)。
この状態でストレスを受け、顔面蒼白、頭のふらつき、舌の色が淡い、脈が細いといった症状に加えて、イライラ、不眠、多夢、驚きやすい、健忘、といった精神不安の症状や、食欲不振、泥状便、話すのがつらい、息切れ、元気がない、声が低く弱い、手足がだるいなどの症状が現れたときは、気血を中心に補う「加味逍遥散」や「人参養栄湯」「十全大補湯」を使います。
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