虚実
虚とは「正気の虚」で、実とは「病邪の実」です。人体にとって必要な物質や機能の不足が「虚」で、不必要有害なものの存在と病理的反応が「実」と考えます。機能面に限りますと、虚は機能の低下を、実は機能の停滞あるいは過元進を意味します。
一般的にいえば、虚実は人体の抵抗力と病邪の強弱を弁別するもので、これによって治療に補法を用いるか攻法を用いるかを決めます。つまり、必要なものは補い、不必要有害なものは取り除くことです。
虚証
虚証とは、陰液(血液・津液・精)あるいは陽気の不足で、大きく分けると気虚・陽虚・血虚・陰虚があります。
虚証が発生する原因としては、
・先天的な体質虚弱(先天不足)
・慢性疾患にともなう体力消耗
・過度の疲労・飢餓・性生活の不節制
・出血・激しい発汗・急激な嘔吐や下痢にともなう物質的消耗
・精神的なストレスによる体力消耗
・病邪の侵入による病理的反応で生じた機能的・物質的な消耗などが考えられます。
実証
実証とは「病邪の実」のことで、病邪の存在(六淫・-食積)とこれにともなう病理的反応状態を指します。体の抵抗力すなわち正気が十分強いときには、病邪に対して強い反応を示しますので、あきらかな実証を呈します。ただし、もう一面で、正気が衰退したために体内に血瘀・痰飲・水腫などの産物が生じて、あらたな実証を発生することもあります。
実証が発生する原因としては,
・細菌・ウイルス.在どの病原微生物の感染や寒冷・暑熱・乾燥などの物・環境の変化による障害
・暴飲暴食・美食の過多・刺激物の摂取過剰・不潔な飲食物の摂取など
・寄生虫・外傷など
・精神的ストレスや感情の抑うつによる自律神経系の過緊張や過亢進(肝結・肝欝化火)
・体内の機能失調や機能低下によって生じた病理的産物(痰飲・水腫・血瘀)が考えられます。
虚実挟雑
虚証と実証の両面がみられるもので、補法と攻法の組み合わせで治療します。
虚実挟雑の発生する原因には、
・病邪の勢いが強いか病邪が長時間にわたって存在したために、正気が消耗したとき。急性熱性疾患の中期~後期、あるいは慢性疾患にみられます。この状況は、実証が原因で虚証を生じたものです。
・体の虚弱なもの(虚証)が病邪を感受したとき。
・体の機能や代謝の低下あるいは物質的な不足(正気の不足)が原因で、体内に病理的産物としての病邪が発生したとき。慢性疾患などで浮腫・胸水・腹水・循環障害(血疹)などが生じた場合がこれにあたります。この状況は、虚証が原因で実証が生じたものです。
(治法)
・先攻後補一正気の不足があきらかであるが、病邪の勢いの方が強いため、まず攻法によって病邪を除き、後に補法を用います。
・先補後攻一病邪の勢いが強いが、正気の不足の程度の方が強いためにまず補法によって体力を回復させて、後に攻法を用います。
・攻補兼施一般的な虚実挟稚で攻法と補法を同時に用います。